カスケード・オート・マニュアル

目次
『カスケード・オート・マニュアル』の理解に苦しんでいるあなたへ
Q&Aサイトで、『カスケード・オート・マニュアル』についてのご質問を拝見させていただきました。
難解な解説で、理解に苦しんでいる方がいらっしゃいますので、私が簡単にご説明させていただきます。
『カスケード・オート・マニュアル』とは大型蒸気ボイラー並びに、大型温水ボイラーの運転監視に必要な制御操作です。
これをシーケンス制御といいます。
シーケンス制御とは、並んでいる順番で問題を処理するフローチャートです。
ごみ焼却場や総合病院で扱われている大型蒸気・大型温水ボイラー
例えば、ごみ焼却場や総合病院などでは大型蒸気ボイラー、または大型温水ボイラーを扱っています。
それらのボイラーを、CRTと呼ばれる運転監視操作卓で『カスケード・オート・マニュアル』を駆使しながらさまざまな制御操作をします。
まず、ボイラーの種類を大別しますと、大型蒸気・温水ボイラーと小型貫流ボイラーに分けられます。
(炉筒煙管ボイラーもありますが、説明がややこしくなりますので、割愛させていただきます)
そこで、『カスケード・オート・マニュアル』が使用されるのは、シーケンス制御を必要とする大型蒸気・温水ボイラーです。
簡単に操作できる小型貫流ボイラーでは、『カスケード・オート・マニュアル』は使用されません。
ボイラーにも不易流行があります
ごみ焼却場の場合
ごみ焼却場では、廃熱式の大型蒸気水管ボイラーが主流です。
(ごみ焼却場に小型貫流ボイラーはありません。)
これは、時代の流れに左右されない不変的な意味合いも含まれています。
ごみ焼却場では、なぜ使用されるボイラーが、この先も変わることがないのか‥。
それは、蒸気タービン発電機を回すためには、大きなエネルギーが必要です。
その大きなエネルギーを生み出すためには、大きな出力で稼働する機械設備が必要です。
その大きな出力で稼働する機械設備というのが、ごみ焼却場では大型蒸気水管ボイラーにあたるわけです。
そういった理由から、ごみ焼却場では昔から大型蒸気水管ボイラーが使われています。
総合病院の場合
総合病院で大型蒸気・温水ボイラーが使用されているところは旧態依然です。
なぜなら、総合病院では時代の流れと共に、使用されるボイラーが変わってきているからです。
これまでの病院ボイラーは、分散された各病棟に、蒸気や温水を一台の大型蒸気・温水ボイラーで送気・送水していました。
ところが、長距離に送気・送水するのは非効率でありハイリスクでもありました。
なぜなら、漏水事故が多いのです。
そこで現在では、危機管理とエネルギー効率の視点から小型貫流ボイラーを各病棟に分散して設置するのが主流とされています。
それにより現在、全国の総合病院では使用されるボイラーが、大型蒸気・温水ボイラーから小型貫流ボイラーに切り替わってきています。
よって今、全国の総合病院では大型蒸気・温水ボイラーは廃止の傾向です。
因みに、大型蒸気・温水ボイラー廃止の傾向は、総合病院だけではありません。
大学なども同様です。
ごみ焼却場や総合病院では『カスケード・オート・マニュアル』がどのように使われているのか
ごみ焼却場で使われる『C・A・M』モード
ごみ焼却場では中央制御室にCRTと呼ばれる運転監視操作卓があります。
そのCRTに『カスケード・オート・マニュアル』といった制御モードプログラムが組み込まれています。
これらの制御モードプログラムを使い分けて、燃焼制御・公害制御・空調制御をします。
平常時では、通常モードのカスケードで自動運転をします。
何か問題が起こったときに、変更モードのオート・マニュアルを使って原状回復させます。
ごみ焼却場のCRTは、数秒から数分おきに軽警報が発報されるので、変更モードの使用頻度は多いです。(軽警報は、スルーできる警報がほとんどです)
総合病院で使われる『C・A・Mモード』
総合病院の大型蒸気・温水ボイラーは24時間、通常モードのカスケードモードで燃焼監視をします。
大型蒸気・温水ボイラーを扱う病院ボイラーの場合、設備が旧態依然のため、CRTでモード操作はしません。
ボイラー監視盤でモード操作をします。
病院ボイラーでモード変更をする場合は、よほどの場合です。
それは※大型蒸気・温水ボイラー立ち上げ下げ時と、ボイラーの燃焼が極端に悪化した場合のときに限ります。
ごみ焼却場のように頻繁にモード変更はしません。
なぜなら、ボイラー燃焼が極端に悪化することは滅多にないからです。
しかし、蒸気・温水の使用量が多い夏期と冬期はボイラー燃焼が悪化します。
それは、明け方などの限られた時間帯にだけ、集中的に燃焼が悪化します。
📚まめ知識:※大型蒸気・温水ボイラーの立ち上げ下げ
大型蒸気・温水ボイラーの立ち上げと立ち下げは、小型貫流ボイラーや給湯ボイラーのように、ボタン一つで発停というわけにはいきません。
立ち上げ下げ専用のシーケンスプログラムに沿って、一日がかりで行われます。
なお、大型蒸気・温水ボイラーは立ち上がると、数か月間に渡って24時間連続自動運転されます。
あなたは、『カスケード・オート・マニュアル』を難しく考えていませんか?
ここから、『カスケード・オート・マニュアル』の本質をお話しします。
言葉の原義・定義から意味を紐解いていけば、理解しやすいかと思います。
カスケードモード
カスケードの制御は、最小の動きで事足りるように演算で割り出された省エネ自動制御です。
温度や流量を、ひとまとめで制御しながら微調整をしてくれます。
カスケードの原義は「小さい滝」です。小さな水の流れをイメージしてください。
カスケードの定義は「小さな操作を積み重ねることで目的の結果を導き出す動作」です。
それらの原義や定義をCRTに重ね合わせると、「コンピューターが自動で小さな動作を繰り返して燃焼を安定させている」と理解できます。
言わば、CRTの標準モードです。
標準モードとは、何もないノーマル設定です。
何もないノーマル設定であるため、カスケードモードでは手動操作によるカスタマイズができません。
もし燃焼状態が安定していて、※空気や薬液の流量調整をする必要がない場合は、何もせずこのままカスケード制御で続けます。
安定した燃焼状態の中、コンピューターが小さな動作で制御してくれます。
カスケード制御とは、安定した状況で活躍する、CRTのスタンダードモードです。
📚まめ知識:※空気や薬液の流量調整
ごみ焼却場では、炉内に空気を吹き込み、排ガス処理設備に薬液を噴霧しています。
オートモード
オート制御は、軽警報発報時の初期症状において使われる、言わば早期対応の処方箋です。
燃焼状態もさほど悪くないし、公害値もまだイエローゾーン、だけど原状回復させたい‥。
そんなときに使うのがオート制御です。
軽警報レベルの燃焼温度調整や、公害値抑制であれば、オート制御で手軽に原状回復ができます。
オート(自動)と謳っていますが、手動操作で任意の数字が打ちこめます。尚且つ自動で流量の微調整もしてくれます。
例えば、現場に吹き込む空気や薬品の流量を増やしたい(減らしたい)場合、カスケードからオートにモードを変更して、変更したい数字を多め(少な目)に打ち込むといったことができます。
そしてモード変更後、手動操作で任意の数字が入力されると、CRTが、その数字を現場に効果をもたらす数値として読み取ります。
その後、入力された数値を目標数値としてCRTが認識します。
そしてCRTが、その目標数値に向かい自動追従して現場に信号を送り、空気や薬品を吹き込みます。
それと並行して、自動で炉全体の状況を読み取りながら、演算しつつ流量の微調整もしてくれます。
要するにオート制御は手動制御もできるし、カスケードのように自動制御もできるといった中間的な役割です。
ちょっとした原状回復のために、カスタマイズして使う制御だと思ってください。
オート(自動)と謳っていますが、原状回復したら最後は必ず標準モードのカスケードモードに戻さなければなりません。
マニュアルモード
マニュアル制御は、重警報発報時に緊急で使われるCRT手動操作です。
流量入力と同時に電磁弁の開閉操作もできますので、操作が直接的かつ効果的です。(二種類の操作がひとまとめでできます)
もし燃焼状態が極端に悪い場合や、公害値が極端に高い場合は、手動操作に変更をして早めに問題解決をしなければなりません。
そこで自動モードのカスケードから、手動モードのマニュアルにモード変更をして、現場に効果をもたらす数字を入力します。
そのとき手動操作で打ち込まれた数字は、脈動せずに固定されます。
カスケードやオートのように自動でブレません。
トレンドグラフで言うならば、波形のレンジがなくなり、一定の流量で薬品や空気を現場に吹き込む状態が続きます。
したがって、現場への影響が絶大で効果が早く現れます。
マニュアルの制御操作は、言わば、外科的治療と言ったところです。
ところが、もしそこでマニュアルモードにしたままでカスケードモードに戻し忘れてしまうと、とんでもないことになります。
多め(少なめ)に打ち込まれた数字の流量で、そのままずっと現場に吹き込まれてしまいます。
ですから、原状回復したら必ずカスケードモードに戻してください。
操作の戻し忘れは、よくありますから注意が必要です。
カスケードモード・オートモード・マニュアルモードまとめ
CRTの基本モードは、あくまでもカスケード自動制御モードです。
ですが、もし公害値が上がり、各流量を多め(少なめ)にしたいとき、カスケード自動制御モードでは手動操作ができません。
そういった手動対応をしなければいけないときに、オートモードもしくはマニュアルモードを選び、モード変更をします。
モード変更後、そこで現場に効果をもたらす数字を打ち込み、原状回復まで待ちます。
具体的な一例:変更モードのオートモード・マニュアルモードを使って公害値を下げる方法
ごみ焼却場で例えるならば
オートモード、もしくはマニュアルモードを使って、CRT操作で薬品を多めに吹き込まなければならない状況を解説します。
「いまNOXの公害値が58ppmを超えたので、カスケードからオートもしくはマニュアル※SV値25を入力して、アンモニアを脱硝反応塔に吹き込みます」というような感じで操作します。
【入力数値は一例であり目安です。全ての事業所において同様に運用はできません。】
📚まめ知識:※SV値とPV値
SV値=設定値です。
PV値=現在値です。